無い頭で考えた『ドクター・ホフマンのサナトリウム〜カフカ第4の長編〜』の感想にもならない何か
※ネタバレ含みます。まだ観てない方はお控えください※
カフカのことはわからない。唯一知っているのは、変身、というタイトルの本があって、主人公が虫になってしまうという突飛な内容であるということだけ。カフカの本は読んだことがないし(たぶんこれからも読まないし)、もちろんカフカのプロフィールとかいつの時代に生きていつ死んだかも知らない。
だけど観てきた。「ドクター・ホフマンのサナトリウム〜カフカ第4の長編〜」を。カフカのことはさっぱり知らないけれど、そもそも第4の長編なんて見つかっていないのだし、カフカじゃない人(ケラさん)が作ったものなら、カフカを知らない私も理解できるのでは?なんて期待を込めて。
まぁその期待はすっかり裏切られたわけなのだけど。
前半はまだ良かった。現実パートと小説パートがはっきり分かれていて、意味が理解できたし何が起きているのかも理解できた。でも、カーヤが病院で戦場に行ったはずのラバンの亡骸を見たあたりから、2つのパートがまぜこぜになった。まぜこぜになったし、各パート自体にも腹落ちしないことが出てきた。
ラバンとガザは、何がどう正しかったのか? 優しいほうが兄? 乱暴なほうが兄? 戦場で死んだのではなかったの? なぜ病院にいるの? そもそもいつ戦場へ? 列車からどうして消えたの?
大倉孝二さん演じるブロッホの友人は、ブロッホのひいおじいさんに撃たれていなかった? どうして普通に現代の家に帰ってこられたの? どうしてそれが小説にも書かれているのに、撃たれた後のことを誰も明言しないの? おばあさんの言う本当はいないってどういうこと? 撃たれる前からいないの? あれは誰なの?
てっきり伏線回収的なことがあるとばかり思って、いつやってくるかと待っていたのだけど、それは訪れなかった。すべて置いてけぼりのまま。点と点が繋がらないまま、話は終わってしまった。理解できなかった。1つひとつのシーンは素敵で、演者さんはそれぞれ素晴らしくて。それはわかる。けれど、中身が分からないことだらけだった。
カーテンコールが終わり、わからないなぁと思いながら席を立った。私の周りの人も「難しいね」「わからないね」と口々に言っていた。帰る前に立ち寄ったトイレでもずっと「わからない」と思い続け、どこかのタイミングでふと腹落ちした気がした。
わからなくて良い、のだと。
カフカの作品は不条理と言われてるらしい。不条理の意味は「事柄の道筋が立たないこと」。今回の舞台はカフカの遺稿が見つかったことによる、遺稿の舞台化(戯曲化)なのであれば、きっとその遺稿および舞台も不条理で然るべきだ。だからこそもちろん「ドクター・ホフマンのサナトリウム」も事柄の道筋が立っていない。道筋を立てようとした私が理解できなくて正解なんだ。
そう思ったらすっきりした。カフカの不条理な世界に私はきっとしっかり浸かることができていて、わからない体験ができたことはむしろ喜びなのかもしれないと。わからないと思うことこそが、カフカの作品に触れることなのだと。
そんなことを無い頭で考えたりしました。
無い頭の中に残っているのは、バルナバス大尉を演じた琢ちゃんの半裸ですありがとうございました。